拝啓

 早春の候、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 この頃、AISS2021オンラインコースにて大変お世話になっております。とても貴重な教材を無料で提供してくださりありがとうございます。

 さて、このオンラインコースについていくつか疑問点と意見がございます。

 

 

 まずは、シミュレーターの使用についての疑問点です。

 私は、学校のホームページにて掲載されていた「グローバル通信」で今回のプログラムを知り、参加させていただきました。その紙面では今回のオンラインコースについて、このように説明されていました。

【募集要項】 ◆対象:申込時中学3年生~高校2年生(英語でプログラミングを学ぶ意思のある生徒) ◆内容:小型自動運転車の制作・制御プログラミング

I オンラインコース(受講無料):基本的なプログラミングについて学び、最終的にパソコン上の仮想空間で車を走らせます。 II サマーコース(2021年3月下旬申し込み受付):実際にマシンを組立て、プログラムを実装して自動運転を実現します。参加条件は、オンラインコースの修了です。ゴールはチーム対抗レ ースで、上位者はアメリカの高校生と合同のファイナルコースに参加できます。

I. オンラインコース ◆費用:無料(※PC 必須(Core i7 以上推奨)) ◆カリキュラム:

  1. Racecar Course: バーチャル空間でシミュレーションを行います。また、シミュレーションを行うにあたり、制御や Python の基本的なコードを学びます。
  2. Python Course: Python で関数を使用して数値処理を行います。サマーコースで使用する Python について、Racecar Course よりも詳しく学びます。任意で受講可能です。

◆身につくスキル・知識:

  1. 基本的なプログラミング知識
  2. 英語スキル:英語版yahoo知恵袋のPiazzaを使用
  3. ロボット制御知識
  4. Python の数値処理スキル

最終的にパソコン上の仮想空間で車を走らせます」とあります。しかし、今回のオンラインコースのPiazzaにはこうありました。

Alex Hahn

Can't find download information for RACECAR Simulator In the Introduction to RACECAR section the course mentions a RACECAR simulator. I can't find any information for downloading this simulator in the course.

Eyassu Shimelis

Hi Alex,

Thanks for your question.

We won't be using the simulator in the online course (BWSI104). To keep it short, we decided to focus the course on a small subset of robotics fundamentals (controls, OpenCV, motion planning). We mentioned the simulator to give students an idea of what to expect for the summer class.

Hope I answered your question. Sorry for the confusion, I'll make sure to clarify on the course page.

-- Eyassu

 なんと、今回のオンラインコースではシミュレーターは使えず、サマーコースでしか使えないとのことです。私は、このシミュレーターで実際に動かすことを楽しみに参加したのですが、事前に説明された内容と違っていてとても悲しいです。

 AISS2021が始まる前にシミュレーターが使えないという情報は伝わっていなかったのでしょうか?シミュレーターを使わずに自分で車を走らせることができるようにはなれないと思います。

 また、プログラミングに限りませんが、何かを学ぶ時は実際に手や体を動かさないと身につきません。Pythonコースについては任意受講ですが、ただYouTubeを眺めるだけでプログラミングができるようになるわけがありません。仕組みがわかったところで実際に自分で動かせないと本当にできるようになったとは言えません。これはBWSIのカリキュラムなのでここで言っても仕方がないことだとは思いますが...  その点でもPythonコースをスキップさせるというのは本当にプログラミングを学ばせる気があるのかと疑ってしまいます。コース紹介の文章からプログラミングという言葉を取り除いた方が良いのではないでしょうか。

 今回のこのコースは無料でしたが、もしこのコースが有料だったらどうなるでしょうか?そうです、景品表示法第5条、優良誤認に明らかに該当します。Alexさんもシミュレーターを使えると思っていたように、このコースは利用者に『実際のものよりも著しく優良である』と誤認させていると言えます。

次に、ZOOMの使用に関する疑問点です

このオンラインコースではZOOMを使用してやりとりをしていますが、本当にZOOMを使用する必要はあるのでしょうか? これに関していくつか意見があります。

 まずは、顔を出して会話をする必要性についてです。

 大学のように、誰か講義をして、それを聞くというのならまだ理解できます。しかし、このオンラインコースでは、個人でBWSIのカリキュラムを進める形式となっています。そのため、セッションの9割の時間は相手の顔を見て過ごすことはないはずなのに、わざわざCPUの処理を食ってPCを重くし、ネットの通信にも多大なる負担をかけるようなZOOMを開く必要はないかと思います。  特にネットの通信についてですが、モバイルデータ通信を使用している方や、ネット環境があまり良くない環境にいる方もいると思います。全員が5Gを使って通信しているわけではないことを理解してほしいです。

 それに関連して、毎セッションに質問、アドバイスを強制される問題についてです。

 なぜ、毎セッションで最低一回は質問とアドバイスをしなければならないのかわからないです。何もわからないことがなければ質問することがないので、わざわざどうでもいい質問をしなければならくなり、自分にも相手にも面倒です。わからないことがあれば自分で調べるのが普通でしょう。  全て完璧に理解していて、全く問題がないひとはセッション後に悪い評価をつけられなければならないのでしょうか?  AISSのオンラインコースはコミュニケーション力を育成する場なのですか?それならそうと、紹介文に書いて欲しいものです。  これは私だけかもしれませんが、私は、これが"オンライン"コースだから参加したのであって、「本当はみんなと対面で実際に会い、コミュニケーションを取り合って学びたいけど、この時世だし、しょうがないからオンラインでわいわいやろう!」、と思って参加したのではないのです。オンラインであるこのコースで"オフライン"の対面セッションを行うことは理解ができません。少なくとも、オンラインコースだと表記されたら、人は最初から最後までオンラインでやるんだと思いますし、そう理解できます。それなのに突然オフラインのイベントを無理やり挟み込むのはおかしいと思います。少なくとも私はオフラインでやる価値がわかりませんし、求めていません。

 もし、それでもどうしても質問、アドバイスをして欲しい...!というのならば、音で伝え合う必要はないんですよ。私たち人類は幸運なことに文字を使うことができます。そうです、わざわざ重いZOOMを使って伝え合う必要はないのです!多くの人がPCを使っているのですから、それに適したメッセージツールを使うのが妥当だと思います。例を挙げるとしたらDiscordがふさわしいと思います。

 それでもやはり音で伝えないと気が済まない!というのなら、それでもやはりDiscordを使うべきだと思います。実は、Discrodはもともとゲーマー向けのアプリなだけあり、ボイスチャットが存在しており、これがかなり優秀です。さらに、画面の共有もできるため、わからないことをどうしても映像で伝えたいときがあれば、この機能が役に立つと思います。後ほどDiscordについてもっと詳しく解説いたします。

Life is Tech! との比較

 ZOOMを使ってうまくいってるプロジェクトもあります。それは、ライフイズテック株式会社が行っている、Life is Tech!のオンラインキャンプがその例です。  Life is Tech!でZOOMが採用されている理由の一つには、おそらくメンバーのテンションを上げるという目的があると思います。さまざまなイベントでメンバーを楽しませたり、互いにコミュニケーションを取り合って謎解きをしたりもします。そのため、ZOOMが適しているのです。しかし、AISSはそのような要素は一切ないのにもかかわらず、ZOOMを採用しています。目的にあったツールを選んだ方がいいかと思います。

 Life is Tech! もAISSと同様にグループに分かれてZOOMによるセッションをしていますが、ここには1つ大きな違いがあります。それは、メンターの存在です。Life is Tech!は一見チャラチャラしているように見えて、実はしっかりとそれぞれのグループにメンターを最低一人以上配置しています。なので、わからないことがあったら、その人に聞くことでGoogle検索よりも早く解決することがあります。しかし、AISSのオンラインコースでは、それぞれのグループにメンターや有識者が配置されることはありません。そのため、グループに分かれてZOOMをするということにあまり意味がありません。それこそメンバー同士のコミュニケーションを目的としているのなら、今回のオンラインコースではなく、またそのようなことを目的としているコースでやってください。

 

連絡方法について

 今回のオンラインコースでは、運営からの情報の伝達にはメールを、グループメンバー同士ではLINEのオープンチャットを利用しています。  このメールでのお知らせはまだ理解できますが、メンバー同士にLINEのオープンチャットで連絡をさせるというのはいささか理解ができません。

まずは、今のLINEを使うには電話番号が必要だということです。タブレット版やPC版だけでは新規のアカウント登録はできませんし、スマホだけあっても、自分の電話番号がなければアカウントは作れません。今の中高生は全員スマホを使えてLINEをしていると思っていたら大間違いです。家庭の事情で携帯を持てない人もいます。私の知り合いにも数人います。ただ単に普及しているからという理由だけでLINEを連絡ツールに採用するのはやめた方がいいと思います。  また、LINEのオープンチャットを使うにはかなり手間がいり、年齢確認が必要だったり、携帯版のLINEでないとオープンチャットに入れなかったりという問題があります。年齢確認は人によってはかなり手間のかかる作業になるにもかかわらず、それをして得られる利便性はさほどありません。あるとしたら自分の持っているスタンプを大量に送りつけられるくらいです。  さらに、今のオープンチャットの使い方では、オープンチャットを活かしきれていません。私のグループでは本当に最低限の業務連絡しかされてないですし、私の友達のグループも同じような感じだそうです。

やはり、目的にあった連絡ツールを採用すべきだと思います。先でも述べたように、このようなやりとりにはDiscordが最適です。

 

Didcordについて

 Discordはボイスチャット機能画面共有機能があったり、話す話題ごとに部屋を作れたり、サーバー内での役職分けによる様々な権限の操作ができたりと、LINEよりも管理がしやすく、機能面ではLINEの上位互換とも言えるでしょう。Discordは海外の大学のオンライン授業で使われたということもあります。

 また、Discordは役職によって閲覧、発言できる部屋(チャンネルと言います)を指定できるため、ここは運営の人が情報をお知らせするチャンネル、としたり、ここはグループX-Nの情報伝達のチャンネルとしたりすることができるため、リーダーの人にわざわざオープンチャットを作成してもらう必要はなくなります。特に、情報伝達では、@everyoneとサーバー全員にメンションをすることができるため、いちいちメールを送る必要はありません。Discordには、文字装飾による強調や、プログラミングのコードを見やすくする装飾もあります。

Discordのように、LINEやZOOM以外にも情報伝達ができたり連絡をとれたりするツールはあります。ZOOMは本当に必要なものなのでしょうか。もし、可能であればZOOMを使用することに至った経緯を教えていただきたく存じます。 Discordの詳しい情報: https://discord.com/why-discord-is-different

 

AISSの対象者について

 先ほど挙げた、「グローバル通信」(ichinoya社が作成したわけではないのは承知ですが、しっかりと対象校に情報を伝達していないという点から指摘させていただきます)の募集要項には、

◆対象:申込時中学3年生~高校2年生(英語でプログラミングを学ぶ意思のある生徒)

とあります。しかし、今回私が実際にカリキュラムを進めて実感したこととしては、別に英語はわからなくてもどうにかなるが、数学がわからないと問題が解けないということです。私は中学3年生なのですが、多くの中学校では塾にでも行っていない限り微分や積分を習いません。AISSのFAQ「微分はどのくらい理解しないといけない?」には

結論から言うと、問題が解ければOKです!

とありますが、微分を習っていないのならば問題は解けません。「英語でプログラミングを学ぶ意思」があっても数学ができないと話になりません。しっかりと募集要項に「習っていない数学や物理を自力で完璧に扱えるようになりながら、DeepL翻訳を駆使して車の動かし方を学ぶ意思がある生徒」などの記載をしてほしいです。

 また、同様のFAQに「P制御・I制御・D制御とは」とありますが、これらは動画の方で説明されているので再度説明する必要はないのではないでしょうか?もともと英語ができる前提でカリキュラムを進めているはずなので、このように日本語で説明しなければわからないのは、少し違うな、と思いました。FAQ「『s』や『1/s』とは」では、微分や積分を物理の物体の運動に喩えて説明されていますが、微分や積分がわからなければ喩えられてもよくわからないと感じました。

 だからこそグループで相談しあえと言うのなら、それは他の人の学習の妨げになるため初対面の人にそんなことをさせられません。他の参加者は「数学や物理を完璧に扱えて、どんなに難しい英語でもすらすら理解できる、非常に学ぶ意思で溢れている生徒」のはずなので、そのような方々の学習を妨げるのはとても恐れ多いことです。仮に他の参加者も「習っていない数学や物理に苦戦しながら、DeepL翻訳を使ってようやく理解できる英語力で、車の動かし方について少し触ってみようと思ってみた生徒」だとしたら、その人に質問しても期待していた解決策や答えが返ってくるとは思えません。

 また、今回はPythonコースは任意受講のようでしたが、2021年度からはPythonコース、Githubコースは必修となるようです。しかし、私がPythonコースを覗いてみたところ、かなり高レベルなことをしているようにみえました。プログラミング未経験者には手も足も出せないような内容です。必修になったということは、学ばなければわからないことが多すぎるからだと思いますが、それほどたくさんのわからないところが発生するようなカリキュラムで「Pythonのところはわからなくてもいい」としていてはいつまで経っても実際に自分で車を走らせることができるようになるとは思えません。

 BWSIという貴重な教材を多くの人に広めたいという気持ちはわかりますが、そのせいで全く対象年齢ではない人たちが参加することで、手も足も出ない教材で苦しめられ、それによってその後の人生で触れることがなくなってしまうとしたら本末転倒ではないでしょうか。このBWSIのカリキュラムを受けるのに適した人とそうでない人がいます。私は適していない方に属していると思います。私にもっと数学の知識や物理の知識、英語を読む力があればまだ楽しめていたと思います。私たちは自分の意思で「これは面白そうだし、私でも参加できそうだから参加しよう」と参加してきたのです。それなのに高難易度な、募集要項とはほとんど異なった人たちのために用意した教材をぶつけてくるのは良くないと感じました。

 今回、私はAISSと出会い、Pythonによる車の制御について学ぶことができると思い、とても楽しみにしていましたが、実際にはそんなことはなく、ただYouTubeの動画を眺めるだけの時間を過ごすことになりました。独自の貴重な教材を使うのかと思っていましたが、実際は一般公開されているYouTubeの動画でした。それなら別に参加しなくても学ぶことはできます。私は、このAISSでしか学べないことがあることを期待していました。おそらく私が今後AISSに参加することは永遠にないでしょう。

 まだまだ寒さが残っております。お風邪など引きませんようお気をつけ下さい。

敬具

2021年3月11日

海城中学校3年 周廷叡